「やっちく」宝暦義民伝 下の巻
- 話かわりて孫兵衛宅の 妹お滝は利発な生れ
- 年は十六つぼみの花を 水仕奉公と事偽わりて
- 二年前から間者の苦労 今日も今日とて秘密を探り
- 家老屋敷をこっそり抜けて 家へ戻って語るを聞けば
- 下る道中太田の渡し そこに大勢待ち伏せなして
- 一人残らず捕えるたくみ そこで孫兵衛にっこり笑い
- でかした妹この後とても 秘密探りて知らせてくれよ
- 言うてその夜に出立いたす 道の方角がらりと変えて
- 伊勢路まわりで桑名の渡し 宮の宿から船にと乗りて
- 江戸に着いたは三月なかば 桃の節句はのどかに晴れる
- 城下離れし市島村の 庄屋孫兵衛一味の者は
- 四月三日に箱訴いたし すぐにお裁き難なく終り
- 悪政露見で金森様は 遂にお家も断絶致す
- それに連なる重役たちも 重いお仕置きまた島流し
- 名主お庄屋その他の者は 願い主とて皆打ち首と
- ここに騒動も一段落し 宝暦九年は青葉の頃に
- 郡上藩へは丹後の宮 津宮津城主の青山様が
- 御高四万八千石で ご入城とは夢見る心地
- 政治万端天地の変り 長の苦しみ一時に消えて
- いつものどかに郡上の里は 目出度めでたの若松様か
- 枝も栄える葉もまた茂る これぞ義民の賜ぞとて
- 共に忘るなその勲しを 共に伝えん義民の誉れ
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