「げんげんばらばら」
- ハーげんげんばらばら何事じゃ 親も無いが子も無いが
- 一人貰うた男の子 鷹に取られて今日七日
- 七日と思えば四十九日 四十九日の墓まいり
- 叔母所へ一寸寄りて 羽織と袴を貸しとくれ
- 有るもの無いとて貸せなんだ おっぱら立ちや腹立ちや
- 腹立ち井川へ水汲みに 上ではとんびがつつくやら
- 下ではからすがつつくやら 助けておくれよ長兵衛さん
- 助けてあげるが何くれる 千でも万でも上げまする
- 器量がよいとてけん高ぶるな 男がようて金持ちで
- それで女が惚れるなら奥州仙台陸羽の守
- 陸羽の守の若殿に なぜに高尾がほれなんだ
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- ハー立つ立つづくしで申すなら、
- 一月かどには松が立つ 二月初午稲荷で幟立つ、
- 三月節句で雛が立つ 四月八日にゃ釈迦が立つ、
- 五月節句でのぼり立つ 六月祇園で祭り立つ、
- 七月郡上で踊り立つ八月 九月のことなれば
- 秋風ふいてほこり立つ 十月出雲にゃ神が立つ
- 十一月のことなれば こたつが立ってまらが立つ
- まらが立ったら 褌やぶれて損が立つ、
- 十二月のことなれば 借金とりが門に立つ
- あまり催促厳しゅうされて うちのカカほんとに腹が立つ。
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- ハー郡上八幡開祥社 十七・八の小娘が
- さらしの手拭い肩にかけ 小ぬか袋を手にもちて
- 風呂屋は何処よと尋ねたら 風呂屋の番頭の云う事にゃ
- 風呂は只今抜きました 抜かれたあなたは良いけれど
- 抜かれた私の身が立たぬ
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- ハー鬢(びん)のほつれをかき上げながら 涙でうるむふるい声
- あたしゃお前があるがゆえ ほうばい衆や親方に
- いらぬ気がねや憂う苦労 それもいとわず忍び逢い
- 無理に工面もしようもの 横に車を押さずとも
- 嫌ならいやじゃと云やしゃんせ 相談づくの事なれば
- 切れても愛想はつかしゃせぬ 酒じゃあるまいその無理は
- ほかに云わせる人がある
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- ハー駕籠で行くのはお軽じゃないか わたしゃ売られて行くわいな
- 主の為ならいとやせぬ しのび泣く音は鴨川か
- 花の祇園は涙雨 金が仇の世の中か
- 縞の財布に五十両 先へとぼとぼ与市兵衛
- 後からつけ行く定九郎 提灯バッサリ闇の中
- 山崎街道の夜の風 勘平鉄砲は二つ玉
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- ハー十四の春から通わせおいて 今さらいやとは何事じゃ
- 東が切りょうが夜が明けょうが お寺の坊さん鐘つこうが
- 向かいの丁稚が庭はこが 隣りのばあさん火を焚こが
- 枕屏風に日はさそが 家から親達ゃ連れにこが
- そのわけ聞かねばいのきゃせぬ
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- ハー私しゃ紀の国みかんの性よ 青いうちから見染められ
- 赤くなるのを待ちかねて かき落されて拾われて
- 小さな箱へと入れられて 千石船に乗せられて
- 遠い他国へ送られて 肴屋店にて晒されて
- 近所あたりの子供衆に 一文二文と買い取られ
- 爪たてられて皮むかれ 甘いか酸いかと味みられ
- わしほど因果な物はない
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- ハーおぼこ育ちのいとしさは
- しめた帯からたすきから ほんのりこぼれる紅の色
- 燃える思いの恋ごころ かわいがられた片えくぼ
- 恥しいやらうれしやら うっとりお前の眼の中で
- 私しゃ夢みるすねてみる
- げんげんばらばら何事じゃ 田舎育ちの鶯が
- 初めてあずまへ下るとき 一夜の宿をとりそこね
- 西を向いても宿はなし 東を向いても宿はなし
- 梅のこずえを宿として 花のつぼみを枕とし
- 落つる木の葉を夜具として 月星ながめて法華経よむ
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- ハー娘十七嫁入りざかり
- たんす長持ちはさみ箱 これほど持たせてやるからは
- かならず帰ると思うなよ 申しかかさんそりゃ無理よ
- 西が曇れば雨となり 東が曇れば風となる
- 千石積んだ船でさえ 追い手が変れば出て戻る
- げんげんばらばら何事じゃ 私ゃ水辺のほたる虫
- 生まれはどこよと問うたなら 川は流れの砂の中
- お宿はどこよと訪ねたら 昼は木の下草の陰
- 川端やなぎの露の宿 夜の七つがきたなれば
- 黒ちりめんの羽織着て 茜の鉢巻しゃんとして
- 小田原ちょうちん腰にさげ いとし殿さの道照らす
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- ハー筑紫の国からはるばると
- 父をたずねて紀伊の国 石童丸はただ一人
- 母のおうせをこうむりて 神室(かむろ)の宿で名も高き
- 玉屋与平を宿として 九百九十の寺々を
- 尋ね捜せどわからない それほど恋しい父上を
- 墨染め衣にして くれたぜんたい高野が分からない
- げんげんばらばら何事じゃ 髪は文金高島田
- 私しゃ花嫁器量よし 赤いてがらはよけれども
- ものが言えない差し向かい あなたと呼ぶも口のうち
- 皆さんのぞいちゃいやですよ
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