序文
「はじめに」
- あいつが、何か話をするそうな。ちょっと聞いてみてこうか。そう言って出かけてきてくださったとしても、人前でお話をするなどということは、かなり・・・
第1話
「道草」
- もともと口いやしかったのでしょうか。それとも、こども達は一般にひだるかったのでしょうか。少年の頃の思い出は、どうやら、何もかも、食べ物に・・・
第2話
「ねどこ」
- 今時、万年床などと言いますと、無精な独身者の、夜昼しきっぱなしのねどこが目に浮かびます。大正から昭和へかけて、私の育ったねどこは、うすやから・・・
第3話
「高田晴之進氏を訪ねて」
- おととしの初夏、高田さんのお宅に参上して、色々とお話を伺いました。負債整理組合のこと、村有林設定のことなどについては、今日その・・・
第4話
「通信簿をかえりみて」
- この村の博物館には、明治三十二年三月の通信簿があります。残念なことには、これは、武儀郡博愛小学校高等科一年生の女の子のもので、先年・・・・
第5話
「おじゃみとまりつき」
- おじゃみ遊びの時に歌われた歌の文句が知りたかったので、給食室の古池とよさんに頼んでおきました。翌朝、はっきりしないので酒井きぬさんに伺って・・・
第6話
「ドスノマクラとメサブ」
- ことしもドスノマクラが咲き続けています。ドスノマクラはは6月から7月へかけて咲く、たいへん息の長い草花です。アザミの花に近い、赤紫の、唇のような・・・
第7話
「いやな虫」
- DDTおかげでノミが全滅しました。夜蚊もハエもうんと減りました。あの頃のノミみときたら、もぞつかぬのはか寒のしみの間ぐらいではなかったかしら・・・
第8話
「遊びその1」
- しゅっけんは、大正時代の男の子にとって、秋群れから春先までどうしても欠かせたかった遊びの一つである。さしわたし五センチばかりの黄色のボール紙に・・・
第9話
「魚と私」
- 苗代が始まると私の家を巡って、裏から下づまをかねのてに、二百十日までに堰溝が流れることになっておりました。それまでは上づまを年中流れている川どで・・・
第10話
「魚と私」
- 土用休みと父母は言った、夏休みなんてついづい父母の口からは聞けなかった。一学期の終わりの日に学校からもらってくるものは、通信簿に夏休みの心得に・・・
第11話
「盆」
- 「盆が来たら、アメ買ってやるで、ええ子しとらな」と言われて待つあめは、大きなタライのような浅いおけに入っていた。かなでこほどの鉄の・・・
第12話
「麻」
- 土用の終わりごろに麻は刈り取られます。この作業を麻をヒくとも言いました。「そろたそろた踊り子がそろた二番すぐりの麻のよに」と、うたの文句にも・・・
第13話
「百姓のかたき」
- 春先になるとどこの家でもハサノコやハシゴなどのつまった縁の下のケコミ板のすき間をふさぐ。そして、その板ごとに金網でウエののどのような仕掛けをして・・・
第14話
「虫いろいろ」
- 道オシエという赤・青まだらの美しい虫がいる。ほんとうの名はハンミョウ言う。梅雨頃から夏へ、むかっと草いきれする道を、だるい足をひきずっていくと・・・
第15話
「畑佐というとこ」
- わしゃ家の者によく言うんじゃが、今は、コガイといっても、昔のコクソゴぐらいじゃんな。わしは、証このないこたぁ言わんことにしとるが・・・
第16話
「畑佐鉱山の主 1」
- 口長尾に銀が出たのは、今から四百年近くも昔、豊臣秀吉が勢力を張っていた時代で、当時の領主は井上氏、人夫頭は、越前穴馬の四郎右衛門と言われています・・・
第17話
「畑佐鉱山の主 2」
- 木谷孫六の全盛時代には、坑夫が三百五十人ばかりおりました、家族を入れると千人近くもいましたろうか。住宅もあったけれども、それだけでは・・・
第18話
「畑佐鉱山の主 3」
- この村のうちで、これまでにお話したヤマのほかにも、カネの出るところがありました。寒水の銅は硫化が多くて、あんまり感心しません。小川峠を越した・・・
第19話
「寒水の加平淵」
- 寒水の在所を離れてから三キロ余り、寒水川を北の方、烏帽子岳に向かってさかのぼると、そこが奥の宮です。昔、奥の宮のコブ岩というところで・・・
第20話
「又助岩と又助ぶち」
- 昔、寒水に又助という大工さんが住んでいました。郡上に過ぎた職人というので、時の殿様から過田という字をもらったといいますから、よっぽどの・・・
第21話
「畑佐鉱山の秋」
- 吉田川を隔てた向山の中腹に立つと、緑を回復した山裾を囲んで、右手に神田平の砂防の石積みがひろがり、左手には、険しいかじや谷に沿って、・・・
第22話
「二百十日以後」
- 二百十日には、堰川の水がいっせいにとまる。春の堰普請の日と、年に二回の川干しである。その日が平日であったりすると放課が待ち遠しくて・・・
第23話
「川佐長者と茶釜岩」
- 八幡行きのバスが、フミチの乗り場を過ぎ、左手の地蔵様のところへ差し掛かったら右の窓から岩山の方を見てください。二十メートルばかり・・・
第24話
「ドウジという蜂」
- 昭和四十五年九月十六日の夜、それは夢のようなひとときであった。寒水の治右衛門さんのお宅で、寒水に伝わる古い歌の数々を録音させてもらった・・・
第25話
「秋から冬へ」
- 大正の終わりごろだろうか、足踏み式の脱穀機が入ってきたのは。それまでは稲こきといえばコイバシで家の中でやることに決まっていた。ハサ干しされた・・・
第26話
「おいしゃさま」
- おそらく、私が生まれて最初に手を握ってもらったおいしゃ様は、角十郎さだったのではなかったろうか。私の小学校に上がるころの父や母の・・・
第27話
「鶴佐の新平さと牛鬼」
- 寒水の龍宮ぶちに住んどった龍が、金龍山と名を改めて、本光寺へあがる前のことやというで、昔っていや昔のことやな。今は、そこんとこ池沢って・・・
第28話
「ウスヤでの生活」
- ウスヤの中心は、言うまでもなくイルイである。イルイは、床下から石で築き上げ、その内側は、カマ土にスサを入れて練りあげたものである。四尺に・・・
第29話
「馬匠 その一」
- カノエ、カノトの日は、肺の臓より病おこる。これは腹の煩いなり。肺に熱あれば鼻よりヨダレ垂らす。これは肺に風邪あれば鼻フキをするなり。・・・
第30話
「馬匠 その二」
- わしも、はじめは、気良へ装蹄に行ったけんど、しまいにゃ、わしゃ装蹄を習ってきたもんだで、大分、小川の人たちにもうってやったり、小川へは・・・
第31話
「小荷駄」
- わしゃ三原で生まれた、畑佐彦太郎のニ男で、ここへ分家したんじゃがな。こどものうちから馬が好きで、馬のおもちゃを木で作ってもらって・・・
第32話
「年の暮れ」
- こどもたちにとって、師走半ば過ぎの日の長いこと、勤めに出ているきょうだいが、いついっかは帰ってくる。盆正月にしか帰省しない兄や姉の帰りが待ち遠しい。会えば会ったで・・・
第33話
「正月」
- 旧正月の元日、界隈に新聞をとっている家の一軒もないころのことだったからよかったようなものの、日本の大部分の地域では、もう一月前に・・・
第34話
「草刈り」
- 四月の草刈りっていえば、わしらの方は、自分に田ナ草場があって、そこで刈ったんやけど、野ロ組は、まんだそのころ総山があったもんやで・・・
第35話
「馬あれこれ」
- ここらでは、だいぶ今はすたってきたけども、初午っててね。旧の二月の初めの午の日、あの時には、馬ってことには、いちばん縁起をかついだもんだがね・・・
第36話
「小川の小荷駄」
- 昔は、畑佐峠の生命やったでね馬が。まあ、炭をつけてきて米をつけてあげる輪送機関の生命やったでね。そうだけれども、昔は峠の道のワルイとこを馬で通ったもんやが・・・
第37話
「鈴木両太郎さんの表彰状」
- わしゃ道路看守に使ってもらったおかげで、三十九年には伊地田村長さんに、四十五年には山田村長さんに表彰していただいたわいな。お話せんとわからんがな。この上で・・・
第38話
「駒回し その一」
- わしゃ、炭焼きしょったけんど、なんよな。雪ぁ存外降ったし、なんしとったら、寒水の覚さが家へ来て泊まって、「わしも年が寄ったし、誰か株買ってくれんかしらん」って・・・
第39話
「駒回し その二」
- 家を出て、ひとかえり、まず二十五日から三十日ぐらいやったがな。馬瀬の局の前でな、わしゃ、やーっと家へ回り帰らんのやし、心配しとるにちがいない。ここでちいと金は・・・
第40話
「耳柿」
- 今じゃもう、あたりは杉木立の茂みに隠れてまって、さっぱり昔の面影はのうなったけんどな、比丘尼寺のかかりとしては、よっころ恰好なとこじやったろうもな。ぐるりは・・・
第41話
「尾会津の力末孫」
- 力末孫ってこた、なんのことか知っとるかな、知んなれまい。こりゃなあ、力持ちの子やで力持ちってわけでなしにな、その人の孫や曾孫や、もっと、ずーとあとの何代目かに・・・
第42話
「水沢上の鉄山」
- 水沢上の鉄山が日の目を見たのは、もう五十二、三年も前のことでな。大正の六、七、八年ごろやったな。わしらは、こどもじゃったが、水沢上へ行きなれる衆の話を・・・
第43話
「節分から初午へ」
- 父や母は、節分のことをセツボーと言った。立春は、旧のアラ正月過ぎのことが多く、よほど年回りがよくない限り、あたりは雪に埋もれている。 私どものこどもの時分は・・・
第44話
「節供」
- 旧の桃の節句は、試験休みと父母が言う、春休み中にくる楽しい行事であった。節句やわいと言えば、母の取り粉ひき、こどもたちのモンサ摘み、ようやく芽を開いて伸び初めた・・・
第45話
「日露戦争のころ その一」
- わたしらのこどものころは、高等科は八幡にしかありませなんだでな、奥明方中で高等科へ出たものは、東の孫左衛門さと高田の晴之進さん、たった二人だけやったでな。 そんで・・・
第46話
「日露戦争のころ その二」
- 明治三十八年の六月に金沢の砲兵隊から帰って来たと思ったら、またすんぐに赤紙がきました。そしたら、戦地へ行かんならんことになっての。ほんで、服装検査なんかしたりして・・・
第47話
「昔語り その一」
- 明おりゃ、はや八十八になったがな。おりゃ、新兵衛の六人きょうだいの五人目で、親父さは、大坪悦男さんとこの人や。今は、坂本村へ行っといでるで家はのうなったが・・・
第48話
「昔語り その二」
- おらんたの級はたった五人やったがな。学校へ行かんものもよっぽどあったぞいな。ほんでも、二十人やそこらおっつらもな。四年生までやでな。おらんたの級は五人やったが・・・
第49話
「小さい仲間たち」
- 牛も馬も、犬も猫も、そして鶏も、私の少年時代を通じて、ついに、家にはなんにもおったことがなかった。父が、生き物を飼うのがイニムニきらいだったせいか、それとも・・・
第50話
「姉と語る」
- 小学校は四年やった。四年も半分も行かなんだんや。子守りでな。そんで先生がなんやったな、あんまり休むもんやでな、みんながすまいていってから、子を負んどって一時間・・・
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